コラム:暴落のポンドに今何が起きているのか?

愛称“殺人通貨”と言われていますが、ポンドはトレンドを継続しやすい通貨です。

愛称“殺人通貨”と言われるポンドが凄まじい勢いで動いています。
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表① ポンド円(日足 赤:陽線 青:陰線)

昨年2015年11月19日に188円81銭をつけたあと、直近1月15日には166円25銭まで下落し、2か月弱で22円56銭下落しました。先週1週間で6円、1月に入って2週間で11円下落しています。前営業日1月15日に、一時的に少しだけ前日高値を更新しましたが、前回、前日高値を上抜けたのは12月28日以来のことで、きれいな下落トレンドが続いています。
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表②ポンド円(月足 赤:陽線 青:陰線)

月足で見てみると、昨年6月に195円88銭をつけて、一時は米ドルの次に利上げされるであろう通貨として期待され買われていまし、私自身も結構ポンドを買っていまして、200円手前まで行ったら、そこで利益確定して止めようと思っていました。ところが、そこから一転、約半年で29円63銭下落したのです。この動きの猛威が恐れられ“殺人通貨”とも言われ、銀行のディーラーもポンドは怖くて手を出さない通貨として有名です。

しかし、上に示した日足、月足のチャートを再度見てみれば分かるのですが、ポンドという通貨はトレンドを継続しやすい通貨で、はっきりとした方向性があるということが分かります。ですから、逆に行ったらすぐ撤退し、思った方向に行ったら、買い増し、あるいは放っておけば大きく儲けることが出来る通貨であるといえます。

バイナリ―オプションのトレードでは、1分・2分の超短期勝負のよりも、少し長めのトレードを行ったほうが良い通貨です。理由は簡単で簡単に10銭~30銭ぐらい上下してしまうからです。ですから、ポンドを、チャートを見ながら1分足で追いかけることは難しく、トレンドの方向を錯覚する可能性がでてしまいます。基本的に下落トレンドはまだ続くと考えていますので、エントリーの場所を間違えなければ、売り(LOW)からのトレードでかなり勝率は高い通貨だと思えます。ポンドドルについても同様です。

しかし、一時はポンド円は200円に接近したにも関わらず、何故166円台まで下落してしまったのでしょう?
今回はその点についてお話ししたいと思います。

ポンドも原油安の影響を受けている

これまで、原油下落と言えば、カナダドルや豪ドルが売られることについてお話ししてきましたが、実はポンドも売られやすいのです。
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ニュースではアメリカのWTIの原油価格が取り上げられ、あまり北海ブレントは取り上げられませんが、実はイギリスも原油を採掘しているのです。場所は、イギリスの東側の北海で石油を採掘しています。

北海を挟んだノルウェーも同様に石油を採掘しているので、石油価格が下落すると、ノルウェークローネが下落します。
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表③ ノルウェークローネ円(週足 赤:陽線 青:陰線)

ノルウェーは本当に深刻な状態のようで、ブルームバーグから1月16日にこのような記事も出ています。
ノルウェー、石油産業の危機を宣言-金融危機はるかに上回る深刻度
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O10B8Z6TTDS901.html

北海で採掘された原油は主に欧州で利用されています。BPという名前を聞いたことがありませんか?聞いたことがなければ、このロゴマークは何となく見覚えがあるのではないでしょうか?
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2000年以前のBPのロゴ
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現在のBPのロゴ

これがイギリスのエネルギー会社BP(British Petroleum)のロゴマークです。世界的な巨大企業ですので、「あ~」と思われた方も多いでしょう。実はBPが1970年に北海の英国領域内で最初に油田を発見したのです。

その北海で採掘される北海ブレント原油価格が、アメリカのWTIの原油価格の暴落に煽りを受けて大変なことになっているのです。
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表④ 北海ブレント(月足 赤:陽線 緑:陰線)

2012年に128ドルあった原油価格が、前営業日2016年1月15日、29ドルを一時割れ、2004年2月以来の下落となりました。この影響が、カナダドルやオーストラリアドルと同じように、ポンド売りの原因の1つになっています。

イギリス、EU離脱?

現在、市場ではイギリスがEU(欧州連合)から離脱する可能性があることを嫌気しています。
最近は全く静かになったギリシャですが、ギリシャのEU離脱(GREIT)問題で、長い間、あれだけ通貨ユーロを下落させ、混乱に陥れただけに、マーケット関係者にとっては、ポンドも同様のことが起きるのではないか?という不安心理から、現在は、ポンドは買われる通貨になっていません。
(ちなみに、イギリスはEU加盟国にも関わらず、通貨ユーロを利用せず、自国通貨ポンドを利用しています。スウェーデンもクローナ、デンマークもクローネの自国通貨を使っています)
2月に行われるEU首脳会談で、仮にイギリスがEU離脱の承認を得られれば、4か月後の6月が国民投票となることが今のところの最短シナリオとなりますが、おそらく、そのようなことにはならないと思うので、ギリシャ問題同様にずるずると引きずり、長期化する問題になるのではないでしょうか。
仮に国民投票で「離脱反対」となれば、一気にポンドが10円以上上昇することは考えられるので、これに備えたいと思いますし、逆に「EU離脱賛成」となれば、おそらく昨年のスコットランド独立問題も再炎上する可能性もあり、イギリスは更に混乱に陥って、ポンドは一段と暴落する可能性があると思います。この時は、本当にポンドが“殺人通貨”になるのかもしれません。

イギリスの利上げ期待が完全に遠のいた

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表⑤ 英国株価FTSE(週足 赤:陽線 緑:陰線)

あまり皆さん、英国の株価など見ないと思うので、2015年の週足チャートを載せておきましたが、昨年の春ぐらいから下落傾向が続いていています。
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表⑥ 英国債10年債利回り(日足 赤:陽線 緑:陰線)

次に英国債10年利回りを見ると、2015年11月9日の高値を最後に下落し、その後ポンド円は11月19日以降下落推移となっています。一方、ポンドドルは、11月5日以降、この日の高値を抜けることなく下落が続いています。
下落トレンドがポンド円よりも先に始まったポンドドルに目を向けてみると、11月5日にイングランド銀行(BOE)から公表された四半期ごとのインフレレポートで、2015年のインフレ見通しを0.3%から0.1%に、2016年の見通しを1.5%から1.1%に、2017年の見通しを2.1%から2.0%へそれぞれ下方修正しました。更に利上げ予想を前回の2016年第2四半期から2017年第1四半期に後退させたことで、この日は大きくポンドが売られたのです。それまで、米国の次に利上げか?、もしかしたら英国の方が先に利上げか?とまで言われていたにも関わらず、予想外のハト派なレポートに、ポンドへの大きな失望が表れ、翌日もポンド売りは継続しました。
先ほどもお話ししたように、原油価格が下落をつづけているわけですから、物価の上昇も期待できません。またここ数か月間、英国の経済指標の結果がぱっとせず、特に鉱工業生産や製造業PMIが振るいません。
12月に入り、パリのテロによる欧州全体の株価の下落や、ドラギ総裁の逆バズーカによるユーロ買い、黒田総裁の逆バズーカによる円買い、そして米国の利上げが更にポンド売りに拍車をかけ、12月23日には7-9月のGDPを下方修正し、ポンドにとって良い話が2015年11月以降全くでてきていないのです。
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表⑦ ポンド円 (日足 赤:陽線 青:陰線)

ポンド円、ポンドドルともにRSIを見ると、売られ過ぎの領域に入っていますが、売られ過ぎの領域で横に推移を継続している場合は、トレンドが出ているサインであって、「そろそろ逆張りでのエントリー」のサインでは全くないので注意をしてください。

今週は・・

今週のイギリスは、19日火曜日に12月消費者物価指数・12月生産者物価指数、20日水曜日に12月雇用統計、22日金曜日は小売売上高と、多くの重要な経済指標発表が発表されますので、注目したいと思っています。
また、その前に19日火曜日11:00に10-12月中国GDP、12月鉱工業生産の発表がありますので、一波乱あるかもしれません。

そして、引き続き今週も原油価格の動向には注意が必要です。
イランと6カ国、核合意の履行を宣言 米欧が制裁解除を表明
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK17H05_X10C16A1000000/
イランの制裁解除によって、原油の輸出や金融取引の制限などの制裁を解除するとになり、更に原油の供給過剰の状態が続き、原油価格が下落し、ポンドやカナダドル、豪ドルが売られ、円買いとなる可能性があると思われます。