こちらのコラムをお読み頂いている皆さんは、何かすごいことが為替の世界で起ったようだけど一体何が起きたの?と思ってご覧頂いていると思います。

そもそも、バイナリ―オプションやFX、外貨預金をする人にとってはドル円やオージー円、ユーロ円など円がらみの通貨やユーロドルなどが馴染みの通貨ペアですね。

今回の世界中の市場を混乱させた通貨ペアは、ユーロスイスフランの通貨ペアで、日本人にはなかなか馴染みのない通貨ペアです。ですから、今回いまいちピンときていない方も多いかと思います。

この通貨ペアを取引できる業者さんは日本では限られていますし・・。

2015年1月15日 スイス中銀の暴挙

15日木曜日は、東京時間から、日経平均・ドル円ともに上昇し、下げていた原油価格も上昇したことから、リスク回避ムードが一旦落ち着いついて、これで再度リスクオンになっていくのかな~と思っていました。

ところが18:30ごろ、スイス中銀がユーロスイスの1.2の防衛ラインを撤廃というニュースが流れ、ユーロスイスが大暴落。一時スイスがらみの通貨のプライスがつかず、市場が混乱に陥りました。もちろん日経平均先物やダウ先物など、株価も大きく下落しました。

このあたりのことはニュースやインターネットで目にしたことだと思います。

具体的に規模の凄さ・恐ろしさを皆さんに理解して頂くため、ユーロスイスではなく、スイス円のチャートで説明させて頂きます。
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スイス円5分足チャート(赤:陽線 青:陰線)

上のチャートは、スイス円の5分足チャートです。
まず、値が大きく120円付近から140円付近まで値が飛んで、20円近く窓を開け飛んでいますね。

そして、114円966から161円543まで上昇しています。たった数十分で46円上昇したわけです。46銭ではないのです。

私は20年以上為替を見ていますが、こんなことは初めてです。トイレに行っていて帰ってきたら10円下がっていたようなことはありましたが、この数十分でこの値幅はちょっと酷すぎますね。

通貨安定のために中央銀行があるにもかかわらず、何のための中央銀行だか全くわかりません。

皆さんご存知の通り、日本は円高で数年前までは輸出企業を中心に苦しんできて、これを是正するために円安に転換させてきたわけです。

スイスも時計などの精密機器の輸出や観光が大きな産業です。ですから今回の中銀の暴挙は、スイスの経済に大きな打撃をあたえることになります。
スウォッチ(Swatch)のCEO Nick Hayekは、スイス通信(ATS)に対し「言葉を失った。スイス中銀が巻き起こしたことは、スイスの輸出や観光産業、最終的には経済全体への津波になる」と語っています。

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ドルスイス5分足チャート(赤:陽線 青:陰線)

今度はストレート通貨、ドルスイスの通貨ペアです。こちらももちろん大きく窓を開けていますね。

どちらの通貨ペアにしろ、たったの20分で40%スイスフランの価値が上昇したことになります。
簡単な例を挙げると、100円で買えたコンビニのおにぎりが、20分後には140円に替わっている。
500万円で買えた車が、20分後には700万円出さないと買えなくなっている、ということです。
スイスの輸出業者やスイスへの渡航者にとっては、とんでもないことです。

スイス中銀の金融テロのような手段

先だって1月12日に、スイス中銀ダンディーヌ副総裁が、
「スイスフラン上限維持は、今後も主要な金融政策の基礎的手段であると確信している」
との認識を示していました。

ところが、この15日は一転、

スイス中銀ジョーダン(冗談!!)総裁が

「現時点でのスイスフランの上限撤廃は正しい」
「上限撤廃は時間の問題だった」
「スイスフランの上限撤廃は必然的にサプライズとならなければならなかった」
「スイスフランの上限撤廃はパニック的な反応ではなかった」
「市場はサプライズが起こった場合強く過剰反応する傾向がある」
「状況は時間とともに修正されると予想する」

と、明らかに市場混乱を狙った金融テロのような手段であったと思っています。

1.2の防衛ラインって何?

以前、コラム 11月30日(日)にスイスで行われる国民投票についての中でもお話をしましたが、スイス中銀は2011年9月6日にユーロスイスの防衛ライン1.2000とし、割り込んだ場合、無制限に介入をすると発表していました。

http://www.snb.ch/en/mmr/reference/pre_20110906/source/pre_20110906.en.pdf

スイスにとっては、欧州圏は一番の輸出先であり、スイスフランの通貨高を好みません。また、“スイス銀行”と言えば匿名性や守秘性の高さ、永世中立国という安全性で金利が低くてもお金が集まりやすく、スイスフラン高懸念がありました。

スイスは、もちろん欧州にありますが、ユーロ圏とは一線を引いているため、この日実際に、容赦のない介入を行ったのです。

2時間で、ユーロスイスは1.1000から1.2000台まで、1000ポイント以上も急騰しました。もちろん、今回同様、他のスイスがらみの通貨とユーロがらみの通貨に影響がでたことは言うまでもありません。

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2011.9.6 ユーロスイス 介入時のチャート

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2011.9.6 スイス円 介入時のチャート

スイス円は、この時約8円急落しました

ただ、この時の介入は、輸出国として自国通貨高懸念で国の経済を守るため介入を行ったので、理解ができます。

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ユーロスイス月足チャート

そして、この2011年の介入以降、上のチャートのように、3年以上1.2~1.25の間で平行してユーロスイスは動いていたのです。
ですから、私を含め投資家や、ファンド勢、銀行などは、1.2近くで仕込んでおけば、ユーロスイスは、上昇するので、上昇したところを利益確定し、また下がったら買い・・このトレードを繰り返していました。

ただ、スイスにとっては、このところ大きくユーロが下落していますから、1.2のライン防衛のために買っているユーロの価値が下がり、国として保有する外貨の資産価値がどんどん値減りしているわけです。これ以上、価値の下がる可能性の高いユーロをさらに買うのは、もちろん国家のためにはならず、1月22日に行われるECBを前に先に手を打ち、1.2の防衛ラインを撤廃したと思っています。

恐怖はここから・・魔の20分間

もちろん今回の件で、大儲けしたファンドや銀行、個人投資家もいたでしょうが、おそらく大半は大損したと思われます。なぜかと言えば、先ほどもお話ししましたように、ユーロスイスは、1.2のラインで3年以上防衛されていたわけですから、ほとんどすべてのディーラ-は1.2付近で買いポジションであったわけです。(バイナリ―オプションで言えば、もし1.2が判定値であれば、この3年以上100%、Highから入れば勝てるテッパンであったわけです。)

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ユーロスイス30分足チャート

FXのリスクが浮き彫りに

バイナリ―オプションは、リスクが購入金額のみ、といった点が優れていますが、FXをはじめ他の通貨取引の場合、このチャートのように窓を大きく開けて値が飛んだ場合、この窓の間にストップを置いていても、値がないのでストップがつかないことが普通です。このチャートは窓を開けた後1.05付近でローソク足が現れていますが、実際は0.75~0.73付近まで暴落したようです。値が消えてしまったので、どこまで落ちたかは正確には分かりません。

ですから、バイナリ―オプションの兄貴分のFXの場合、よく、強制ロスカットとか、マージンコールとか、皆さんも聞かれたことがあると思うのですが、あれは、為替が24時間動いているため、トレーダーの資産を少しでも守るため、業者が行っている決済方法です。しかし、この強制ロスカットや自分で入れておいたストップが、この窓の間にある場合、通常、ロスカットが行われません。もちろん、急いで売っても、値がないので売ることもできません。先ほど説明したスイス円のチャートで言えば、120円から140円に上昇している間、何の防御もできない、ということです。

このような場合、自分が想定していたレベルを大幅に超えたところでストップやロスカットがつき、損失が出ます。

強制ロスカットが証拠金の50%に設定していたにも関わらず証拠金がゼロになっていたり、今回は、追証が発生して、証拠金がマイナスになり、FX会社や証券会社から数十万・数百万の請求がきて、ぞっとしている方、支払い不可能な方も多くいると思います。

もう既に、この追証分の回収不可能を見越して、破たんしたFX業者がでてきています。
http://www.alpari.jp/jp/cnews/show/id/5293/

こんなことは本当に稀ですが、数年に1回ぐらいは窓明けでストップがつかないことはあります。ただこれ程のレベルの話は見たことがありませんし、聞いたこともありませんが・・。

個人投資家だけでなく、同じようなことが、ファンド勢や投資銀行等にも言えることで、大きな損失が出ているところが多いと思います。バークレイズや、ドイツ銀行など、巨額の損失が徐々に明らかになってきていますね。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150117-00000003-bloom_st-bus_all
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0KP2AJ20150116

これから、まだまだ色々と、傷跡が見えてくるのではないでしょうか

今後のスイスフラン

いままでは、戦争やテロなどのリスク回避時は、永世中立国としての“信用”で逃避通貨として買われたスイスフランですが、今回の件で、大きく信用が失われたと思っています。

次回何か地政学的リスクが起きたときに、それでもスイスフランに逃避するのか見極めたいと思います。

もしかしたら、その分、円への逃避が増える可能性があるのではないか、と思っています。

子供のころは永世中立国=戦争はしない=すばらしい国と思っていましたが、これは幻想で、あくまで中立の立場を取り、協調姿勢のない国だということが今回の件でよくわかりました。

スウォッチを多く持っている私ですが、もうスウォッチを買うことはないでしょう。