政治に影響を受ける相場。一方向には動きにく迂闊な取引に注意
山手敏郎
足元の為替相場は驚くほど政治的な材料に影響を受けるようになっており、方向感がもう一つつかめない状態が延々と続いています。

ニュースと要人発言のおかげでドル円はほぼ日替わり相場のような様相を呈しており先行きを見通すのがかなり難しいのが正直なところです。

ドル円の上昇を抑える材料は盛沢山

20日、グーグルがファーウェイからアンドロイドのライセンス権をはく奪し同時にサポートも強制終了する旨の報道が世界を駆け抜けました。
これは5月15日にトランプ大統領によるファーウエイの事実上の禁輸措置に同調したものであり、その内容はある意味でさらに踏み込んだものとなったわけです。

中国企業であるファーウェイは米国における国家安全保障上の脅威であるというトランプの意向に対してこれまでどちらかといえば民衆党よりだったシリコンバレー企業の代表格であるグーグルが独自判断により同調する動きをいち早く見せたことにより米系企業のファーウェイ排除が一気に進む形となりマイクロソフトやアマゾンにも同種の動きが出始めており、米中の貿易問題はITという領域での本格的な双方の企業の排除問題へとシフトした形になってきています。

6月20日からのG20 大阪サミットの前後に米中首脳会談が開催されてなんらかの合意が得られるのではないかといった楽観的な観測が市場を支配した時期もありましたが、中国側からその予定はまだないといった否定の発言がでるなど、そう簡単に決着がつく状況ではなくなってしまったことが強く感じられます。

ドル円1時間足
ドル円1時間足

テクニカル的に見ますとドル円は先週の半ばにかけて一目均衡表の雲の下限である110.86円や90日移動平均線の110.75円、一目均衡表の基準線110.71円レベルを超えるべく上昇の動きを見せて確実に下向きのトレンドが終わったかのような印象を市場に与えましたが、結果的にたった8営業日あまりでこの戻りのトレンドも消え形になっており、週明けはリスク回避で円高が進む可能性がでてきそうです。

クロス円が総崩れの状況

先週の相場で非常に顕著な動きとなったのはクロス円の総崩れで、ユーロ円、ポンド円が円高方向に動いた影響を受けてドル円も酷く頭の重たい展開で週の取引を終えています。
ポンド円1時間足推移

この週末は欧州議会選挙がEU加盟国で実施されていますが、それ以上に大きな影響がでたのは英国のメイ首相の辞任表明で、3年近く時間を使ったのに結局満足なBREXITのディールを完了できなかったことで今後保守党党首にボリスジョンソンがついた場合には10月交渉がまとまってもまとまらなくてもBREXITを実施すると言い出していますから対円、対ドルでさらにポンドが下方向に下落するリスクは高そうでドル円がそれに巻き込まれる危険性もありそうです。

非常に取引がやりにくいのはアルゴリズムが市場を席捲していることから、楽観的な報道がテキストベースでヘッドラインに踊るといちいちアルゴが買いを入れて妙に相場が楽観的上昇を示現しながらネガティブな話が登場するたびに逆に売り込まれることで、人の裁量取引とは違うアルゴリズムの相場への関与が独特のノイズレベルを醸成させている点が非常に気になるところです。

米株市場をめぐっても毎日のように米中貿易関連でセンチメントが大きく変わっているとは思えないものの、ちょっといい話がでれば買い戻り、悪い材料が顕在化するとまた売られるという相場についていくのはかなり至難の業になりつつあります。

ドル円の取引の場合には、つねにクロス円全般の動きをながめながらその方向感を探る必要がありそうです。

日米通商交渉の結果はすぐには出てこない

トランプ来日で本邦メディアではゴルフや相撲観戦、六本木の炉端焼きの話でもちきりの状況ですが、そうした浮かれ話とはまったく別に日米の閣僚級の通商交渉を取り仕切るライトハイザーがとうとう24日に来日して茂木大臣と具体的な会談を勧めています。

こちらは日米首脳会談の声明も出さないことが事前に明らかになっている以上ほとんどその内容は明かされないものとみられますが、トランプはとにかく日米交渉は早く合意してしまいたいという意向がかなり強く、4月の日米首脳会談にあたって記者に公開された安倍総理との会談の冒頭にも5月の訪日時に合意してサインできるかもしれないと日本政府側がまったく感知していないことを口にして安倍首相が真っ青になるという一幕もあったようで、自動車と農産品、デジタル貿易の3分野で相当突っ込んだ要求を突き付けている可能性が高まります。

米国はすでに日欧に配慮する形で自動車関税を180日実施先送りを決める代わりに台数規制を締結したいといった意向も米国メディアからは漏れ伝わっているわけですが、茂木大臣はライトハイザーから日本には台数規制は行わない旨を確認していると公言しておりもしこれが本当なら応分のお土産としてなにかを差し出すことを余儀なくされるはずで、後になってから開示されるであろう米国の要求でかなりドル円が下落するリスクにも備えておく必要がありそうです。

こうした政治に影響を受ける相場は一方向には動きにくく、迂闊にポジションをとりますと投げや踏みの影響をもろに受ける可能性が高まります。あまり事前に思い込まずに相場の状況に柔軟に対応することを考えて取引していきたい一週間になりそうです。