山手敏郎
先週の為替市場はECB理事会で利下げと量的緩和が同時実施ということになったことからある程度売り込まれていたユーロドルはドラギ総裁の会見あたりから猛烈に売り浴びせとなり、その後大きく戻して上昇するといかなり特殊な動きを示現することになりました。しかもその後のユーロドルはさらに上昇するといった形になっており、利下げがユーロ売りにリンクしないというなかなか難しい相場になってしまいました。

ドル円は107.500円が底堅い

ユーロドル1時間足推移
ユーロドル1時間足推移

一方ドル円のほうもユーロをはじめとするクロス円の下押しの影響をもろに受ける形で107.520円レベルまで急激に下落するという場面を見せることになりました。
ドル円1時間足
ドル円1時間足

しかし107.500円から下はかなり底堅いことも確認され再度108円台へと上伸して108円台初頭で週の取引を終えています。週明けはFOMCの結果待ちということでそれまではあまり大きな動きが示現しない可能性がありますが、すでに0.25%の利下げは完全に市場が織り込んでしまっていますので、ここからさらに利下げを継続することをパウエル議長が示唆すればさらにドル円は売られる可能性が高くなりそうです。

ただ明けて翌日が日銀の政策決定会合で、こちらでまさかのマイナス金利深堀が決定された場合にはドル円はさらに上昇する可能性もあり、その結果も確認する必要があります。

シーズナルサイクルからいえばドル円は一方向には動かないのが9月

過去20年のドル円相場のシーズナルサイクルを発表しているサイトがありますが、こちらのデータを見ますと、9月というのは初旬の円高から中盤にかけて円安が進行してもその後また円高に振れる形となっており、かならずしも一方向にトレンドをともなって動いているわけではないことがわかります。
シーズナルサイクル
Data EquityClock.com

シーズナルサイクルとは

季節(月)によってどのような動きをする傾向にあるか過去のデータから割り出したもの。 夏は下がり冬は上がる傾向にある事が分かります。

もちろんこれが今年も同じように示現するのかどうかはまだまったくわからない状況ですが、円安に動いた部分は一旦戻ってくる可能性もありそうで、ここから上昇について行ったとしても上がらなければ確実に利益確定して様子をみるといった用心深さが必要になりそうです。

実際先週の相場を見ていますと108円台に乗せてからは相当輸出の売り浴びせを受けているようでそう簡単には108円台を上昇していかれないのが実情のようです。

ただ、相場はとかくショートになりやすいことからそれが起因してなかなか下げないという部分もありそうです。ただ、106円台からすでに2円以上上昇していることからそれなりにショートも切れている可能性が高く、ショートのストップロスだけを期待して上昇を狙うのもかなり難しそうです。

トランプの対中政策はナヴァロがいる限り基本的に不変

この一週間あまりトランプ大統領から中国に対して厳しい発言が聞かれなくなり、逆に対中官製を中国の国慶節に配慮して2週間延期するといった発表があったり、それをうけて中国商務省から米国の貿易をめぐる善意の措置を歓迎や、中国企業は米農産品の価格の照会開始、豚肉や大豆の輸入を緩和といった歩み寄る姿勢がみられています。

アルゴリズムはこうした報道のヘッドラインをうけてすかさずドルを買いあがり株価も上昇する動きを見せてはいますが、現在直面している状況はそんなに甘いものではなくトランプの側近で政権内ではもっとも対中強硬派であるピーターナヴァロNTC委員長の極めて厳しいシナリオ通りに展開し始めていることが見え始めています。日常的には中国に厳しい姿勢をとることを一時的に緩和するような発言をしていても、どうやらトランプは完全にナヴァロの戦略に乗るつもりのようで、市場にはびこる楽観論とはまったく別の恐ろしい展開が待ち受けている可能性が高くなっています。

ナヴァロの言動はとかく米系のメディアで頻繁に叩かれていますが、彼は足元の米中戦争の裏で米国のウォール街の連中や一部の富裕層が今でも依然として中国と結託する動きをみせており、ホワイトハウスへの波状攻撃が続いているとかなり厳しくこの状況に不満を述べています。

またWSJにも景気後退に備えよと警告を発する寄稿を行っており、米中貿易戦争で株価が大幅に下落するなどやむなしという強い意志を示しているだけに米中が簡単に歩み寄ってなんらかの妥協点を見つけると期待するのはまだまだ早すぎる状況のようです。次回10月の会議は為替も議題になるということではじめて中国人民銀行の幹部も会議に同席するとのことですから、為替に関して激しい応酬が繰り広げられる危険性も高まります。

どうも市場はこのアルゴリズムの妙に楽観的な動きをうけてリスクオン相場と見る向きが増えていますが、米中の問題、香港問題、英国のBREXITと何一つ好転しているものがないという点はしっかり認識しておく必要がありそうです。足元の相場はせいぜいリスクオフの巻き戻し程度でいつ流れが変わるかはまったくわかりません。