山手敏郎
23日午後11時、市場で大きな関心が高まったジャクソンホールでのパウエル議長の講演は若干ハト派的なニュアンスで利下げが進みそうな雰囲気を醸成することができましたが、明確に9月の利下げを口にしたわけではなかったことから相場はどっちつかずの動きとなりました。

しかしそれよりも大きなインパクトをもって見られたのがその直前に中国政府が発表した750億ドル相当の米国からの商品輸入に関する報復関税の実施報道です。

中国政府による米国からの商品輸入に関する報復関税の実施

突然始まった、中国からの対米貿易戦争。

これによってトランプ大統領のツイートによる応戦がはじまり、相場は株を中心に一気にリスクオフ、為替もドルが売り込まれ円がリスクオフで買われる動きが加速しなんと1.3円もいきなり円高に走るという展開になり、105円中盤で週の取引を終えるという意外な展開になってしまいました。

一旦は遠のいた105円レベルでしたが、週明けからの相場はまさにこれを下抜けるかどうかの攻防戦が続くものと思われ、かなり注意が必要な週になってきています。
ドル円5分足推移
ドル円5分足推移

ドル円は株価の下落が後場まで止まらなかったことから底を打っても戻ることができず、結局一時的にですがk105.254円まで押し込まれる状況で週明けの東京タイム以降に年初の安値を付けに行くリスクが一段と高まったことになります。
8月トランプ大統領はしきりに中国との貿易交渉が順調に進んでいるかのようなツイートを繰り返してきましたが、実際のところはまったく関係が改善していないことを改めて示現させたわけでここからはさらに厳しい双方の応酬が進むことが危惧される状況です。

中国の報復措置の規模は米国からのものに比べかなり小さい

今回中国から発表された報復関税は報復関税の対象は5078品目で、10%もしくは5%の税率を上乗せするとしています。実施のタイミングは米国の制裁関税導入の時期に完全にシンクロさせるかたちでまず9月1日に1717品目、12月15日に3361品目と2回に分けて実施することを表明しています。しかし金額的には米国の3000億ドルの四分の一程度であることから、為替や債券の売りなどほかの領域にもさらに報復措置が飛び出すリスクがありそうです。中国からの報復関税にトランプ大統領はすぐに対応することとなりこれまでに課している2500億ドル相当の中国製品に対する関税を現在の25%から30%に引き上げると表明し、10月1日から適用することを発表して完全に関税戦争勃発の様相を呈してき始めています。また中国製品3000億ドルに課す追加関税第4弾の税率も10%から15%に引き上げるとしていますから、どこまでお互いに条件を強めてくるか次第で株も為替も相場状況はかなり悪化することが懸念されます。

トランプは足元の相場の大幅下落を覚悟した可能性も

トランプはFRBの利下げ対応が遅いことを先週猛烈な勢いで罵っていますが、確かに株価を下げたくないという意向が働いているように見えるものの、逆にすでに下落が示現することに腹を括っている可能性も十分に考えられます。株価は今回の対中貿易紛争をめぐっても大きく下落が予想される事態になってきていることから、
大統領選までまだ15か月近くあることを考えると手練手管の政策で高値を維持するのは至難の業であり、一旦大きく下落させたところでその原因をすべてFRBパウエル議長に押し付け最終的には利下げだけではなくQE4を実施させることで来年の選挙前に大きく相場が回復することを狙う戦略に変更してきていることも強く感じます。実際QE4をめぐっては相場が大きく崩れることがその実施の大義名分になることは間違いありませんからここから相場の下落を容認するというのもかなり可能性が高そうな状況になってきています。

8月相場は益々1998年の状況に酷似してきている

今年の相場は98年の相場にかなり酷似しているという話が市場では相当に出回るようになっていますが、実ダウのチャートを重ねてみますと以下のような状況になります。
実ダウのチャート

先週ダウは700ドル近い下げを記録していますから、このアナログチャート比較が今年もほぼ同じようになるとした場合には今週から来週にかけて激しく相場が下落するリスクを抱えることになります。
もちろん1998年と今年は相場が抱えているテーマやリスクは全く異なりますので同じ動きをするとは断定できませんが、今はやりのAIによるディープラーニングでも相場の先行きは材料分析ではなくあくまでチャート形状の極めて酷似したものを探して予測していくのが大きなトレンドになっていますので決して馬鹿にはできない状況で、実際一部のファンド勢も同様の分析から先行きを見ている可能性がかなり高まっています。
一方欧州は9月12日のECB理事会において追加緩和観測が高まっていることから欧州債の利回りの低下がユーロ売りの大きな原因になっており、ドル、ユーロとも通貨安の競争をしている状況に陥っています。当然ユーロ売りは円高につながりやすく、市場ではリスク回避のために金と円を買う動きが加速中ですので想像以上にここからドル円が円高方向に動くことも想定しておくべき時間帯といえます。
いずれにしても相場を動かすドライバーがほとんど政治的要因になりつつありますので、テクニカル的にみた底値が下抜ける危険性はかなり高そうで、レベル感だけではなくしっかりリアルな相場を見ながら先行きを判断することが重要になりそうです。